戸籍上の性別変更

自認する性別と、戸籍上の性別が異なるトランスジェンダーは、現行法では戸籍上同性であるパートナーと婚姻することができません。それだけでなく、トランスジェンダーが自分の望む服装や名前を使用して社会生活を送っている場合、就職活動や海外渡航等の場面で、戸籍やパスポート上の名前や性別と、外観の違いにより、採用に関して不利益な取り扱いを受けたり、入国審査でトラブルになったりといった不都合が生じる可能性があります。
そうした不都合を回避するための方法として、戸籍上の性別の取り扱い変更・名前の変更制度があります。
では、戸籍上の性別を変更するにはどのような要件が必要になるのでしょうか?そして、変更手続きが済んでしまえば、生まれながらに変更後の性別であった者と同様の生活が可能になるのかどうかお伝えしていきます。

戸籍上の性別を変更するには

戸籍上の性別を変更するには、性同一障害者の性別の取り扱いの特例に関する法律(以下特例法と言います。)の要件をすべて満たした上で、変更希望者の住所地を管轄する家庭裁判所に変更の申し立てをして、審判を受けることが必要です。

なお、性別の取り扱い変更の申し立ての準備として、性別適合手術を受けることはもちろんのこと、その実施を証明する診断書の作成、生物学的な性別の判定のための検査、精神科への通院・診断書の作成などが必要となり、時間と費用が必要になります。
特に、性別適合手術は健康保険の適用外なので、かなりの経済的負担を覚悟しなければならず、このことが、性別変更の申し立てのひとつの障害となっています。

性別適合手術を受けるまでに、「性同一性障害に関する答申と提言」に沿って、精神科医の診断、身体治療の承認、身体治療といった段階を踏んで性別適合手術を行うことになります。手術後、性別変更の申し立てに必要な診断書の作成を受けると考えられます。
また、海外で性別適合手術を受けたような場合であっても、あとで適切な医師の診断をうけ診断書等必要な書類を揃えることで、性別変更の要件を満たすことが可能になります。

①性同一性障害者であること
日本医師免許を有する医師2名以上により、性同一性障害であるとの診断を受けることが前提とされます。
②20歳以上であること
性別はその人の人格に関わる重大な事項であり、その変更は不可逆的なものとなるため、本人に慎重に判断させる必要があることから、現在成人とされる20歳以上であることが要件とされています。
③現に婚姻をしていないこと
現行法では、同性婚が認められていないため、婚姻中に性別の変更が認められると同性婚の状態となってしまうので、その不都合の回避のため設けられています。
④現に未成年の子がいないこと
当初は、親子関係など家庭秩序の混乱と、子の福祉への影響を懸念する議論への配慮等を理由に「現に子がいないこと」が要件とされていましたが、反対の声も多く、2008年の法改定で、「子」から「未成年の子」と変更されました。
⑤生殖腺がないことまたは生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。その身体について他の性別の性器の部分に近似する外観を備えていること。
精巣・卵巣の切除を受けた場合のほか、放射線治療や医学的疾患で、生殖機能が失われている場合も含みます。

性別変更後の生活

性別の取り扱い変更の審判前に生じた身辺関係・権利関係は、変更による影響を受けないので、たとえば、変更前の性別に基づき加入していた保険について、掛け金や受け取れる保険金額は基本的には変更ありません。
これに対して、性別の取り扱い変更の審判後に生じる身分関係・権利関係においては、変更後の性別のものとしての取り扱いを受けることになります。
なので、戸籍上の性別の取り扱い変更前に戸籍上同性であったパートナーとの婚姻が可能になります。
ただし、事前に養子縁組をしていた同性パートナー同士は、現行民法上、離縁した後でも婚姻をすることはできません。
また、以前は、性別の取り扱い変更を行い男性となった者がその後婚姻し、生殖補助医療により子ができた場合でも、戸籍の記述から性別の取り扱い変更の事実がわかるため、その子は嫡出子として認められず、父親の欄を空欄とする扱いになっていましたが、最高裁の決定で、その場合でも嫡出子としての推定が及ぶものと認められることとなりました。

ただ、戸籍上、特例法に基づく審判によって性別を変更した事実、親との続柄の変更、変更前の名前に関する記述は残ってしまいます。

また、卒業証明書等は卒業時の情報に基づいて作成されることが多く、その場合、就職活動の際に、性別変更の事実が採用者側の知るところとなる恐れが残ります。その他、医療機関の利用や、生命保険の加入の際など、性別変更の事実や服薬の状況等について告知する必要が出てくる場合も考えられます。

このように、性別の取り扱いの変更の審判を受けても、生まれながらに変更後の性別であった者とは異なる扱いを受ける場面もあるかと思います。

なお性別の変更の審判を受けた場合、戸籍、国民健康保険の場合の保険証、住民票の性別は特に届出などしなくても変更されますが、これに対してパスポートは再発行が必要になります。

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