生活費の援助は特別受益に含まれるか

亡くなった被相続人から生活費の援助を受けていた相続人は、遺産分割において「特別受益」があると判断され、相続分が少なくなってしまう可能性があります。今回は、被相続人から受けた生活費の援助が特別受益に当たるかどうかの判断基準や、特別受益を主張する方法などをお伝えいたします

1. 特別受益が成立する要件

「特別受益」とは、法定相続人が被相続人から、いわば「恩恵」として受けた遺贈・贈与のことを言います。
相続人間の公平を図るため、特別受益の認められる相続人の相続分は、すでに受けた遺贈・贈与の金額を考慮して減らされます。

特別受益が成立するための要件は、以下のとおりです(民法903条1項)。

①法定相続人に対する遺贈または贈与であること
②贈与の場合、以下のいずれかに該当すること

  • 婚姻のための贈与であること
  • 養子縁組のための贈与であること
  • 生計の資本としての贈与であること

相続人が、被相続人から生活費の援助を受けていた場合、上記のうち「生計の資本としての贈与」に該当し、特別受益が認められる可能性があります。

2. 生活費の援助が特別受益となるかどうかの判断基準

被相続人から生活費の援助を受けていたとしても、その全額が特別受益に当たるとは限りません。
親族同士であれば「扶養義務」との関係を考慮する必要があるほか、被相続人が「持ち戻し免除」の意思表示を行っている場合は、取り扱いが異なるためです。

2-1. 扶養義務の範囲であれば、特別受益にはならない

「扶養義務」とは、親族同士が経済的に助け合う義務を意味します。
以下に挙げる条文のとおり、法定相続人になり得る配偶者・子・直系尊属・兄弟姉妹に対しては、被相続人はそれぞれ扶養義務を負っています。

 l 同居、協力及び扶助の義務
第七百五十二条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。(民法752条)
 l 扶養義務者
第八百七十七条 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。(民法877条1項)

扶養義務の範囲で行われる生活費の援助は、あくまでも扶養義務の履行であって、「遺贈」や「贈与」には該当しません。

そのため、生活費の援助が扶養義務の範囲内と認められる場合には、特別受益に該当しないと考えられます。

2-2. 生活費の援助が扶養義務を超えるケースとは?

生活費の援助が扶養義務の範囲内か、それとも扶養義務を超えるものかについては、以下の要素などを考慮して判断されます。

  • 援助の金額
  • 被相続人の財産に対する援助金額の割合
  • 援助資金の使途
  • 相続人と被相続人との関係性

あくまでもケースバイケースの判断になりますが、以下のような場合には、生活費の援助が扶養義務を超えると判断される可能性が高いでしょう。

  • 一般的な生活費の水準に比べて、援助金額が高額な場合
  • 相続財産の金額に対して、援助金額の割合があまりにも大きい場合
  • 車や家など、高額な財産を取得させるために行われた援助の場合
  • 独立した家庭を持つ兄弟姉妹など、被相続人から比較的遠い関係性にある者が、遺贈や贈与を受けた場合

2-3. 持ち戻し免除の意思表示がある場合、特別受益から除外される

特別受益に当たる遺贈・贈与が行われた場合であっても、被相続人が「持ち戻し免除」の意思表示をした場合、当該遺贈・贈与は特別受益から除外されます(民法903条3項)。

特別受益の持ち戻し免除が認められているのは、相続分の決定に関して、被相続人の意思を最大限尊重する趣旨によるものです。

なお、持ち戻し免除の意思表示は、どのような方式によっても行うことができます。
遺言の中で記載するケースが多いですが、それ以外の書面や口頭でも、持ち戻し免除の意思表示をすることができます。

3. 生活費の援助が特別受益に当たると判断された審判例

東京家裁平成21年1月30日審判では、被相続人が相続人に対して行った生活費の援助の一部が、特別受益に当たると判断されました。
この事案では、被相続人から相続人の1人に対して、約7年間にわたり継続的な生活費の援助が行われていました。
被相続人の遺産総額は2億6700万円程度でした。

家庭裁判所は、毎月10万円までの贈与は扶養義務の一環であるとした一方で、それを超える部分は特別受益に当たると判断し、総額630万円程度の特別受益を認定しました。

4. 遺産分割において特別受益を主張する方法は?

ご自身以外の相続人に特別受益が認められれば、結果的にご自身の相続分が増えます。

特別受益を主張する手続きとしては、遺産分割協議や遺産分割調停・審判がありますが、いずれにしても、特別受益を裏付ける証拠資料を準備しておくことが大切です。
生前の被相続人から相続人に対して、どのようなお金の流れがあったのか、預貯金口座の入出金履歴などから論証できるようにしておきましょう。

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